塾講師のアルバイトをしている大学生はとても多いが、例にも漏れず私も1年間ほど塾講師としてアルバイトをしていた経験がある。
大学生の塾講バイトにありがちな、1対1または1対2の個別指導塾だ。
大学生が講師をできる塾のレベルなんてたかが知れていると思っているが、つまり私が言いたいのは、「大学生が講師をしている塾は基本的にやめたほうが良い」ということである。
実情、ほとんどの中堅以下の個別指導学習塾は講師として大学生を採用しており、講師は大学生限定(大卒者は雇用しない)という塾も少なくない。
一方で駿台や河合塾などの本当の大手予備校では、個別指導塾とは全く逆。大学生の採用は不可、大卒以上の講師しか採用しないのが普通である。
私が働いていた塾もまさに、講師は全員大学生の「いわゆるよくある個別指導塾」だった。
もちろん大学生講師の塾には色々な意見があって、「大学生の方がより最新の受験情報に敏感」だとか、「学生だからこそ勉強を教えるのに向いている」とか、色々と考え方があるのは承知しているつもりだが、それらを差し引いてもやはり、個別指導塾に高いお金を出して通わせる意味は全くもってないと思っている。
もし大切なお子様をこれから個別指導塾に通わせようとされているのであれば、これを読んでからよくよく判断して欲しいと思う。
講師のレベルがかなり低い場合が多い
私が働いていたのは大阪の比較的都心部にある、「お客様満足度No.1」を謳う個別指導塾だったが、講師陣のレベルはお世辞にも高いとは言えなかった。
一部、同志社や阪大の講師もいたが、偏差値40台程度の大学に在学している人も結構多かった。
小学校2年生くらいの生徒もいたので、そういった小さな子供さんであればそこまで問題はないかもしれない。
しかしながら実際には、偏差値40台の大学の学生が高3の受験生などを平気で担当していたわけで、そんな授業に果たして大金を出す価値があるのか?と常々思いながら働いていた。
偏差値40台の大学に通う講師が、高校3年生の受験指導ができるはずがない。
「はずがない」というか、もちろん、できないのである。
しかし、その個別指導塾では、「90分のうち、宿題チェックに1割、生徒に問題を解かせる時間に8割、答え合わせと解説1割の時間配分で授業を行う」よう指示されていた。
新人研修の時に何度も模擬授業ビデオを見せられたし、講師室の壁にもそういった張り紙がしてある。
おかしいと思わないだろうか。
塾に来て、90分の授業の間、1時間ちょっとを黙々と一人で問題を解く時間に充て、解説をしてもらえるのはわずか10分もない。
塾の言い分としては「解説に1時間も取らなきゃいけないような授業と言うのはダメ、それは本人のレベルに合っていない問題を解かせている証拠」というものだったが、それで納得できるだろうか?
一般的な集団授業の塾よりも高い月謝を払い、解説をしてもらえるのは1回あたりたった10分以下なのである。
解説授業を聞かずにレベルアップしていけるなら、そもそも塾はいらない。
自分で勉強して自分で答え合わせして、自分で解説を読めば良い。
どうせその個別指導塾も、答え合わせと解説時には講師が解説書をほぼ読み上げるだけである。
そんな実態を知っていたら、あの生徒たちの親御さんは入塾させていただろうか。
個別指導塾とうたいながらも複数人授業である実態
個別指導塾のやばいところは色々あるが、多くの場合、本当の「1対1授業」を受けようと思うと、追加料金が発生する点だ。
私が働いていた個別指導塾は「1:2授業」を基本としており、講師が真ん中に座り、両横の生徒に勉強を教える、というスタイルだ。
ただこれ、例えば同じ学年、同じ科目の生徒を同時に授業するならまだ救いがあるが、科目や学年が重なることなどほとんどない。
右の生徒は高校3年生の阪大志望の男の子の授業、左の生徒は中学2年生の数学の授業・・・そんな感じである。
新人講師研修の際には、「片方に問題を解かせている間に片方の面倒を見るように」と教えられたが、それはちょっと酷すぎやしないだろうか?
これのどこが個別指導塾なのだろうか、と言いたくなる。
うちは1:2だったが、場合によっては1:5、1:6授業などを展開している個別指導塾も少なくないという。
夏季講習のコマ数は講師がそれぞれの都合で決める
多くの塾や予備校には「夏季講習」があり、普段の授業料とは別に夏季講習代を支払って、普段と違う時間割、スケジュールで授業を受けることになる。
生徒も夏休み中で夜以外にも塾に来られるし、講師もまた、夏休みなのだ。
その夏季講習なのだが、夏直前になると、「夏季講習のコマ数提案面談」というものが行われ、講師、生徒、生徒の親の3者で面談を行う。
面談までに私たち講師は、自分が担当できるスケジュールと、生徒が受けたほうが良いコマ数の計画書を作成する。
計画書と言えば響きが良いが、この計画書の実態は、「自分がこれだけバイトのシフト入れたいので、それに合わせて生徒の夏季講習のスケジュールを組む」というものである。
みんな講師室で夏季講習の計画書を作りながら、「夏休みは俺バイトいっぱいしたいから、夏季講習いっぱい組もう!」「俺は他のバイトと掛け持ちするから、週2くらいで良いかなあ」などと楽しそうに話していた。
夏季講習、決して安い金額ではない。
面談では、私たち講師が夏季講習計画書の説明を行い、如何に生徒には夏期講習が必要か、ということに納得していただけたら、すぐに室長がやってくる。
その場で、私たち大学生講師が立てた計画書に基づいた夏期講習代の電卓を叩き、その場で請求書を渡すのである。
「二月の勝者」という中学受験塾を舞台にした漫画があるが、そこでも個別指導塾の存在や、(真意はともかく)金儲け主義で生徒獲得に躍起になる、生徒に夏期講習の申し込みをさせるために作戦を練るようなシーンが存在する。
しかしそれは、「生徒を志望校に合格させる」という目標は同じであり、ただただ自分のバイト代だけを考えている私たち個別指導塾の講師とは全く意味が異なるのだ。
個別指導塾に通わせたい目的は色々あって、確かに学校の勉強にまるでついていけていない、宿題も全くやらないが、親がそれを監督してやる余裕がないといった場合には比較的有効かもしれない。
しかし、純粋に成績を上げたい、受験のために塾に通わせたいという場合は、絶対にこういった中堅個別指導塾を選ぶのはやめたほうが良いだろう。
私自身、自分には生徒に教える能力がないにもかかわらず、室長からの指示で無理やり授業を行ったこともある。
私は数学があまり得意ではないが、阪大志望の高3の男の子の数学指導をさせられたのである。
その時は生徒の貴重な時間を使っているという罪悪感から、その際は生徒さんに事情を話し、数学の授業予定だった時間を英語に変えさせてもらった。
理解がある生徒さんで本当に良かった。
この話、「お客様満足度No.1」を獲得していた中堅有名塾である。
どうしてそんな塾なのに、お客様満足度No.1になれたのか?
その答えは色々あるだろうが、例えば講師向けの研修では、教室の生徒全員の顔写真をフラッシュ暗算のようにスクリーンに表示させ、それを全員が暗唱できるようにしていた。
全員が生徒に挨拶するときに名前を呼び、「ああ、担当外の先生でも自分のこと覚えてくれてるんだ」と良い気分にさせるというものである。
もちろん、そういう方向の努力が必要ないとは言わないが、あくまでそれは「成績を上げる努力をしたうえで」やるべきことであり、授業の質を放置してまでやることではないと思う。
そういった「成績アップに関係ない努力」のおかげで、保護者の満足度は高かったのかもしれない。
もしこれからこういった中堅個別指導塾を検討している人がいたら、まず入塾を検討されている理由をよくよく考え、本当にその塾で目的が達成できるのか、よく考えてみてほしい。
もうこれ以上、金儲け主義の中堅個別指導塾に無駄なお金を払い続ける人が増えないよう、願うばかりである。