難発性吃音症という言葉をご存知だろうか。

検索エンジンからこのサイトに辿り着いてくれた人は、基本的には「難発性吃音」と言う言葉を使って検索してくれたと思うので、意味はともかく言葉くらいはご存知かと思う。

 

一般的に吃音といえば「あ、あ、あ、あ、ありがとう」のように、最初の言葉を繰り返してしまう状態をイメージするが、それは吃音の種類の一つで、「連発性吃音症」と呼ばれる。

 

それに対して「難発性吃音」は、そもそも最初の言葉が出ないのである。

言葉を出そうとすると身体や喉がこわばって「・・・・うっ」となったり、無理に出せたとしても、力を入れすぎて最初の音に強いアクセントがついてしまったりする。

 

(これは「ブロック」と呼ばれる典型的な症状である)

 

連発性と大きく違う所は、そもそも言葉が出ないので、案外、他の人は気が付きにくいのである。

(言えなかったらそもそも言葉として発話されないので、重症なケースでも気づかれない場合も多いようである)

難発性吃音は10年放置しても治らなかった

私が難発性吃音症を発症したのは、中学3年生くらいの時である。

もしかするとそれより前にも症状があったのかもしれないが、「なんかちょっと言いにくいな」とか「名前を言う時噛んじゃうな」程度の認識で、まさか病気だとは思っていなかった(意識すらしていなかった)のである。

 

よく「吃音は忘れる、意識しないということができれば治る」みたいなことを言われているが、個人的な経験からは正直全くそんなことはないと考えている。

 

吃音との付き合い方に慣れ切った最近は、もう吃音のことを忘れている(意識していない)時もあるわけで、そんな時でさえ、声が出せないことで「あっそうだ、この言葉は言えないんだった」と思い出すこともあるくらいだ。

 

まだ何も詳しいことが解明されていない吃音であるが、個人的には「忘れる」「意識しない」というのは、あまり効果的ではないのでは?と感じてしまうわけである。

 

中学生で難発性吃音症を発症した時、まず最初に自分の名前が言えなくなった。

本当に、発話ができないのである。

声を出そうとしても、喉のあたりから「うっ」と苦しそうな音が聞こえるだけで、声が出せなくなる。

 

RPGなんかの「敵の魔法で声が出せなくなった!呪文が唱えられない!」みたいなやつはこういう感覚なのか~と思うが、まあそんな感じである。

 

ともあれ、中学3年生でふと自分の名前を言おうとしたとき、「・・っ!」と力が入っていつまでも発話できず、ただ笑ってごまかした、というのが最初に「吃音」を自覚した瞬間であった

 

その後、難発性吃音という言葉を知り、改善方法や治療法、体験談などを読み漁ったが、出てくるのは根本的な改善方法や治療方法はないという記事と、保険適用外の高額な「最新療法」の宣伝ばかりだった

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言えていた言葉も突然言えなくなるつらさ

私の最初の吃音は「自分の名前」から始まったが、どうやら一般的に、一番よく使う単語から言えなくなる、というケースが多いらしい。

人によっては、自分の会社の名前だったり、住所だったりする場合もあるようだ。

 

もっと言うと、そのように「よく使う単語が言えなくなる」と、その行の別の単語もどんどん発話できなくなってくる、というケースも非常に多いらしい。

 

(例えば私の苗字は「み」から始まるので、ま行の単語がいつも言いづらい。)

 

その他にも、私がいつも言えない単語、シチュエーションは以下の通りである。

 

  • 飲食店での料理の注文
  • コンビニでホットスナックや「ゆうパック」などをレジで頼むとき
  • 特に理由は分からないが「や行」から始まる言葉

 

一番困るのは、やっぱり飲食店での注文ができないことだ。

コンビニのレジの話も、本質的には同じ「注文行為」である。

 

飲食店で注文ができないと、店員さんをテーブルに呼び、いざ食べたいものを注文しようという時に声が出なくなるのである。

 

手元にメニューがあれば良いが、メニューが無い場合(片付けられている場合だったり、カウンターに木札があるだけの場合だったりすると)、指をさして注文することもできない。

 

時間に余裕のある、雰囲気の良い場であったら、私は「あーえっと・・・うーん(笑)」などと言って、さも「店員さん呼んだけどまた迷っちゃった~」といった顔をする。

 

それでなんとか発話ができそうなときはそれで乗り切り、やっぱり声が出ない!という時は、一緒に来ている人に「あれっ私がさっき食べるって言ってたのなんていうやつだっけ(笑)」などと適当なことを言い、代わりに発話をしてもらう。

 

そうすると店員さんも、自然に「〇〇でよろしいですか?」と聞いてくれるので、「あっそれでお願いします!」と注文することができるのだ。

 

本当に気心知れた知人や家族であれば、「ごめん、ちょっと発話できないから注文頼んでいい?」と言えるが、そうでない人が相手ならば、こうやって小細工をして、誤魔化しながら生活をしているのである。

 

(だって、いきなり「私、吃音で、これ発話できないと思うから代わりに注文してもらえる?」なんて言っても、「???」といううちに店員さんが来てしまうだろう。)

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読書・読み上げはできる、別の単語を先に発話すれば話せる

発話ができないと言っても、私も場合はおそらく軽度~中度なので、特定の言葉、特定のシチュエーションで発話ができないだけである。

 

そして、吃音を抱えたまま10年ほど生きてきた中で、あることに気が付いた。

 

それは「何も見ずに発話はできないが、音読、読み上げならできる」という点だ。

 

ただ、これは一つ制約があって、遠くに書かれている文字は難しい。

カウンターの奥の木札にしかメニューが書かれていないラーメン屋は、ちょっとしんどいわけだ。

 

ただ、そういう場合は、スマホのメモ帳などに注文したいメニューの文字を書き写し、それを読み上げて注文する。

 

マクドナルドなどはメニュー表がわりと複雑で、自分が注文したいメニューがどこに書いてあるのかをレジで瞬時に見つけられないので、ネットで事前にメニュー表を調べてからレジに並ぶ。

 

人前で自己紹介させられそうな時(つまり、人前で名前を言わされそうなとき)は、自分の名前とフリガナを書いた付箋を持ち歩き、ポケットやカバンに忍ばせておく。

 

(私の下の名前がキラキラネームだからか、名前に関しては漢字で書いたものでは読み上げもできないときがあるのだ)

 

他にも方法はある。

 

上手くいかないこともあるが、言えない言葉の前に、何かしらの枕詞を付けるのである。

 

名前が言えないときは、〇〇の△△です、といったように、所属を付ける、という具合だ。

 

それでも発話できずに冷や汗をかくこともあるのだが、これらの方法をうまく組み合わせることで、おそらくほとんどの人に吃音であることを悟られないまま、生活できているのではないかと思う。

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吃音には波があるが、緊張したら言えなくなるというわけではない

吃音持ちの人であれば分かると思うが、吃音症状には波がある。

 

どんな対策をしようとも悉く全く発話できないという時もあれば、吃音であることを完全に忘れてしまうくらいすらすらと言えることもある。

 

そしてこれは、決して「緊張したら吃音が出る」というものではない。

 

よく勘違いされて「緊張したら声が出にくくなることってあるよね。もっと楽に、力を抜いたら?」と言われることがあるのだが、全くもって緊張は関係ない。

確かに身体は少し硬くなるし、声がうわずることもあるが、それは吃音ではない。

 

むしろ、本番緊張した時の方がサラサラと言葉が出てくる場合も多い。

 

一方で日常生活でも、全く症状が出ない日もあれば、それこそ色々な小細工をして誤魔化しを重ねなければならない日もある。

 

 

難発性吃音症は、周りから見て気付かれにくい。

 

症状を持っている身としてはそのほうが有難いが、もし異様に言葉に詰まっているようだったり、言葉を返すべきタイミングで発話が遅れるような人がいたら、怒ったり笑ったりする前に、一度そういう可能性を考えてみてほしい。

 

吃音は現在根本的な治療法はなく、私のように「言葉を言い換えて話し、自信をつける」という指導をしている専門家なども多いという。

 

難発性吃音症は、大人だけでなく幼児期に発症するケースも少なくないようで、どういう方法で治療すれば良いのか、そもそも治療なんて可能なのか、まだ解明されていないことも多い。

 

だからこそ、もし子供さんや身近な方が吃音になってしまった場合、「放っておけば治るはずだ」と過信することなく、かといって本人を責めることなく、色々な方法を試しながら、最善の方法を探していってほしい。

 

(「いつか治るはず」という意識は希望であると同時に、いつまで経っても改善されない日々を過ごす中では、その希望が重荷になってくることもあるので・・・)

 

今の私は、決して吃音は完治はしていないものの、先述の「ごまかし戦法」によって、自分が吃音であることをほとんど意識せずに生きることができている。

 

(この言葉は言えない、というのは発話直前の自分の感覚で割と分かるようになってくるので、その時は、ほぼ無意識のうちに「ごまかし戦法」を取ることで、周りにバレることなく、ストレスなく生活できている。)

 

私としては、スポーツなどでみられる「イップス」なども吃音と同じ原理だと思っているので、そのあたりも含めた専門家の方には、一日も早く新たな治療法の確立をお願いしたいところである。

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